世界から少しずれた誰かの、声にならない叫び。ささやかな祈り

スノーマンのねがいごと 3

スノーマンのねがいごと 3

7

とっとこ山のむこうがわには、かきの木がたくさんならんだ林がありました。

ここが「きのこの森」です。

りょうりのおばあさんが話していた、きいろいきのこがとれるところです。

おばあさんは、こんなことをいっていました。

「あのきのこは、おてんとうさまがきらいでね。明るくなると、木のふしにかくれてしまうんじゃよ。だから、くらいうちでないと、なかなかとれないんじゃ」

あきらが夜明け前にしせつを出たのは、そのためでした。

「スノーマン、あったよ!」

かきの木には、きいろいかさのきのこが、たくさんはえていました。

あきらはよろこんで、かきの木にかけよりました。

そして、きのこに手をのばします。

ところが――。

きのこのかさが、しゅるしゅると小さくなっていきます。

「あれ?」

あきらは空を見あげました。

東の空が、うっすらと明るくなっています。

夜明けが近づいていたのです。

きのこたちは、つぎつぎに小さくしぼんで、木のふしにかくれようとしています。

「いけない! 夜が明けちゃう。どうしよう、スノーマン!」

スノーマンは、しぼんでいくきのこを見つめました。

そして、あきらにたずねました。

「このきのこがあれば、スープができるんだね?」

「そうさ。これがさいごのざいりょうなんだ」

「妹さんも元気になるんだね?」

「きっと元気になるよ。だから、どうしても手に入れなくっちゃ」

スノーマンは、しばらくだまっていました。

やがて、少しさびしそうにいいました。

「これでおわかれになると思うけど、わたしもできるかぎりのことはやるつもりだよ」

「えっ? おわかれって?」

スノーマンは答えませんでした。

大きく、大きく、いきをすいこみます。

そして――。

「ふうううううっ!」

いきおいよく、いきをふき出しました。

そのとたん、あきらとスノーマンのまわりに、はげしいふぶきがまきおこりました。

雪がぐるぐると空をまい、あたりはまっ白になりました。

そして、ふぶきが夜明けの明るさをかくしてしまいました。

あたりが、もういちど夜のようにくらくなりました。

「早く、きのこをつんでしまいなよ!」

くらやみの中から、スノーマンの声が聞こえました。

あきらは、おおいそぎできのこをつみました。

一つ。

二つ。

三つ。

どんどん、かごに入れていきます。

やがて、かごいっぱいになりました。

そのとき、ふぶきがやみました。

空が明るくなっていきます。

でも、かごの中のきのこは、もう小さくなりません。

「やった!」

あきらは、うれしくなりました。

「おーい、スノーマン! きのこがとれたぞぉ!」

へんじがありません。

「スノーマン?」

あきらは、あたりを見まわしました。

どこにも、あの大きな雪だるまのすがたはありません。

「おーい、スノーマン! どこへ行ったんだぁ!」

あきらは、なんども大声でよびました。

「スノーマン!」

へんじはありません。

「スノーマン……」

やはり、へんじはありませんでした。

あきらは、ひとりになってしまいました。

魚と、あかねのねっこと、きいろいきのこ。

そのほかにも、山で見つけたスープのざいりょうを集めながら、あきらはとっとこ山をおりていきました。

8

あれほどはげしいふぶきがふいたのに、その朝から雪はふらなくなりました。

おひさまが顔を出し、つもっていた雪も少しずつとけていきました。

スノーマンも、いなくなりました。

「おわかれって、こういうことだったんだな」

あきらは、ぽつりとつぶやきました。

りょうりのおばあさんは、あきらがもって帰ったざいりょうを見て、びっくりしました。

「まあまあ。ほんとうにぜんぶ見つけてきたのかい」

おばあさんは、さっそくうでをふるって、とくべつなスープを作ってくれました。

あたたかいスープを飲んだエミは、

「おいしい」

と、ひさしぶりにわらいました。

それからエミは、くすりを飲んで、あたたかいベッドでゆっくり休みました。

日に日にねつも下がり、少しずつ元気になっていきました。

やがて園長先生も、

「これなら、にゅういんしなくてもだいじょうぶそうだな」

と、いってくれました。

あきらは、ほっとしました。

でも、ときどきにわを見ては、スノーマンのことを思い出しました。

ある日、あきらがだんろのそうじをしていると、外から声が聞こえてきました。

「おおーい、あきら!」

あきらはまどべに行きました。

「なんだい、けい太?」

けい太が、うれしそうに手をふっています。

「ちょっと外に出ないか?」

「だめだよ。いま、だんろのそうじをしてるんだ。さぼったら、園長先生にしかられちまう」

「雪がのこっていたんだよ」

「雪?」

あきらの手がとまりました。

「そうさ。ほんの少しだけどね。雪だるまが作れそうだぞ」

「雪だるま……」

あきらは、ほうきをほうり出しました。

そして、そのまま外へとび出しました。

――もういちど、スノーマンに会えるかもしれない。

あきらは、けい太のあとを走っていきました。

むねが、わくわくしてきます。

雪は、しせつのうらのおかに、ほんの少しだけのこっていました。

9

あきらとけい太は、のこっていた雪をかきあつめました。

できあがった雪だるまは、とても小さな雪だるまでした。

雪がたりなかったので、少しどろもまじっています。

あきらは、雪だるまの前にしゃがみました。

「スノーマン?」

しばらく、なにもおこりません。

「スノーマン。スノーマンなんだろ?」

すると――。

「そうさ」

へんじがかえってきました。

あきらとけい太は顔を見あわせて、いきをのみました。

「スノーマン!」

「また会えてうれしいよ。妹さんは元気になったかい?」

「うん。おかげさまでね」

「そりゃ、よかった」

スノーマンもうれしそうでした。

けれども、すぐに少しこまったような顔になりました。

「せっかくこうして作ってもらってわるいけど、わたしはもう、きみたちに何もしてあげられないんだ」

「ごめんよ」

あきらはいいました。

「ぼくをたすけたせいで、きみのふしぎな力がなくなっちゃったんだね」

「いやいや」

スノーマンは首をふりました。

「もともと、きみがわたしにいのちをくれたんだ。だから、きみのおやくに立てて、わたしはとてもうれしいよ」

そのとき、雲のすきまからおひさまが顔を出しました。

あたたかい日ざしが、おかの上をてらします。

スノーマンの体から、ぽたぽたと水がたれはじめました。

「スノーマン!」

あきらはかなしくなりました。

スノーマンの小さな体が、少しずつとけていきます。

あきらは、ふと思いました。

「ねえ、スノーマン」

「なんだい?」

「スノーマンには『ねがいごと』がないの?」

スノーマンは、だまってあきらを見ました。

「あったら、いってよ。こんどはぼくがかなえてあげたいんだ」

スノーマンは、

「エッヘン」

と、小さなせきばらいをしました。

そして、いいました。

「きみたちが元気に、しあわせにしてくれていたら、わたしはもう何もいうことはないよ」

おひさまの日ざしが、少しずつ強くなっていきました。

外はすっかりあたたかくなりました。

とっとこ山にも、春がおとずれようとしています。

やがてスノーマンは、すっかりとけてしまいました。

あとには、小さな水たまりだけがのこっていました。

10

それから一年がたちました。

また、クリスマスがやってきました。

今年も、とっとこ山のふもとの村には、たくさんの雪がつもりました。

しせつの子どもたちは、みんなでにわに集まりました。

リョウスケも、けい太も、エミもいます。

みんなで力をあわせて、大きな雪だるまを作りました。

できあがると、あきらが雪だるまの前に立ちました。

そして、大きな声でよびました。

「スノーマン!」

しばらくすると、雪だるまがむくっと顔をあげました。

「おや、きみたち!」

スノーマンはびっくりしました。

目の前には、たくさんの子どもたちがいます。

みんな、にこにこしながらスノーマンを見ています。

スノーマンは、みんなの顔をながめました。

その目から、なみだがあふれてきました。

「いったい、だれから聞いたんだい?」

「なにを?」

あきらがたずねました。

「こんな、わたしのささやかなねがいごとをさ」

あきらは、にっこりわらいました。

「だれにも聞いてないさ。ぼくらも、スノーマンと同じことを考えていたんだ」

「同じこと?」

「もういちど会いたいってね」

スノーマンは、しばらくなにもいいませんでした。

そして、うれしそうにわらいました。

でも、その冬は、だれもスノーマンにねがいごとをしませんでした。

ねがいごとをすれば、またスノーマンがいなくなってしまうかもしれない。

子どもたちは、そう思ったのです。

だから、もう何もたのみませんでした。

その冬のスノーマンは、ふつうの雪だるまと同じように、ずっとにわに立っていました。

子どもたちが走りまわるのを見たり、

いっしょにおしゃべりをしたり、

ときどき、いつものようにせきばらいをしたり。

そうしてスノーマンは、子どもたちの元気なすがたをながめながら、長い冬をのんびりとすごしました。

 

                 おわり

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